Rekonvaleszenz 自宅療養記

1998年7月: 祖母の転院 / 職場復帰の準備を進める / 音楽療法が卓効を 奏しはじめる


祖母の転院

腰の骨を折って入院していた祖母が骨折の治療 および白内障の手術を受けて無事退院し、リハビリのために、その病院のすぐ 近くにある老人保健施設に転院することになった。老人保健施設は病院ではな いので、かなり勝手が異る。最初は戸惑ったのか祖母の状態は芳しくなく、さ んざんトラブルを起こして職員の方々にご迷惑をおかけしてしまった。

彼女がトラブルを起こすたびに、すっとんで行って事情をきいたり、お詫 びにまわったり、けっこう疲れた。しかし、もうおしまいかと思った祖母が無 事動けるようになって、それどころか視力まで回復して退院できたことは本当 に幸いであった。短い余生とはいえ、目が見えるようになるということは、残っ た日々のクオリティ・オブ・ライフを大きく高めてくれる。病院および老人保 健施設の方々には心から感謝申しあげたい。

職場復帰の準備を進める

私の状態は、あいかわらずほとんどいつも風邪ぎみ、一進一退という感じ であった。この月はひどく暑い日が多く、散歩に行っても体力を消耗するばか りであった。また、睡眠時に手足が勝手にピクピク動く「ミオクローヌス発作」 がひどく、著しく睡眠を妨げられていた。

しかしながら、そろそろ社会復帰の準備も進めねばならず、内心かなりの 焦りを感じていた。7月10日に職場の教室主任の教授に会いに職場に出むくこ とになった。主任教授と教務委員の先生にお会いしたのだが、教務の先生とは 入院以来はじめての対面である。太って健康そうになった私の姿に少なからず 驚かれたようだ。

さすがに職場で具体的に復職の話をするのは精神的にきつくて、抗不安剤 の一番力価の高いものを服用して行ったが、それでも冷汗ダラダラであった。

うつ病の社会復帰は少しずつ段階的に行わないといけないので、従来のノ ルマ(学部授業週5コマ程度、大学院1コマ、その他各種委員などの雑用あり)で スタートすることは無理、かつコンピュータ関連の管理作業などは絶対禁止と いうドクターストップつきの復職の予定であった。

同僚の好意のおかげで、週学部1コマ、大学院1コマ、そして教室会議への 参加ということで10月から復職させてもらうことになった。

いざ復職について具体的に決めてしまうと、本当にだいじょうぶだろうか という不安でひどく体調を崩してしまった。連日偏頭痛や下痢、そして発熱が 続いた。心の中では、「何とかはやく復帰したい。私は家でじっとできる人間 ではない。それにもうこれ以上職場に迷惑をかけ続けるわけにはゆかない」と いう思いが強い一方、鬱病によって精神機能も肉体の機能も衰えたままで、復 職してやって行けるのか、という疑問に呵まれた。またコンピュータをさわる のが恐しかった。授業の時や学外からの視察の人に対するデモの時にかぎって うまく機能してくれなかった Windows NT のシステムを、一年近いブランクの 後、使うことができるだろうか? 私はものすごいテクノストレスに陥っていた のである。

音楽療法が卓効を奏しはじめる

退院してからの私の生活は、ただ散歩に行くこと、ある程度の家事をこなすこと、 それに新聞や雑誌をざっと読むだけで、あとはボーッと過ごすことが多かった。

そこへひとつの契機がやってきた。「音楽療法」である。

たまたま私が子供のころから存じあげているバイオリニスト(神戸のオーケ ストラのコンサートマスターの女性)が9月の定期演奏会でベートーヴェンの協 奏曲を弾くことになった。

本番はオーケストラが伴奏してくれるが、練習の時は伴奏のピアノ弾きが 必要となる。私はすでに15年ぐらいピアノから離れていたので、とてもお相手 をできるとは思えなかったが、本番で弾かなくていいのだから、とにかく練習 の時の伴奏をお願いしたいと説得され、練習におつきあいさせていただくこと になった。

なにしろこの数年鍵盤には全く触れていないのである。それはもう技術的 には破滅寸前だったが、不思議にバイオリンとあわせて弾いていると気持がい い。たぶん、退院して以来はじめて感じた「喜び」、「至福の気分」である。

つたないながらもピアノを弾くということによって、私の精神的回復に大 きな弾みがついた。7月末あたりから、私の体調の良い時を選んで神戸のスタジオ に通うようになった。

1998年7月は、祖母の転院や復職の準備交渉などで忙しく、なおかつ体調 のすぐれない日が多かったが、しかし「音楽療法」を始めたことは後の精神的 回復に大きく影響することになった。


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Author: Kyoko Rikitake <malte@k2r.org>
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