本来ならこのコーナーに書くような話ではないのだが、今私は二重の意味で うつ病に戻りかねない苦境にある。仕事上の話ではない。仕事は仕事で大変 だが。
家族の事なのだ。
私は今夫と二人で暮らしているが、ここから歩くと50分、 タクシーを呼べば15分ほどで行ける距離のところに私名義のマンションを借り ている。夫と一緒に夕食をとれない時など、そのマンションに寄ることが多い。 つまり私にとっての実家なのである。少し変則的な家族構成だが、養母(私 が9歳の時に亡くなった実母の妹、68歳)とその母親つまり私の祖母89歳の 二人が住んでいる。
その祖母がいよいよ砂時計の砂がだんだん速く落ちてゆくように衰弱し 始めている。逆流性食道炎の最悪のもので、胃カメラを入れようとしても 食道から激しく出血して検査もできない。それで昨日急拠入院することに なった。
残る手段は胃にチューブ状のもの(お医者さまは「イロウ」と言われるが、どんな 字をあてるかわからない。)を通して栄養を入れるか、あるいは最終手段として 人工栄養の点滴で延命するかのいずれかである。ただ胃のほうは10年ちょっと前 に胃の2/3以上を切除しているので、うまくイロウを作れるかどうか不明である。
高カロリー点滴だと、ある先生のお話では、2週間、上記の「イロウ」だと 一ヶ月ぐらいはもつ、という。
いずれにせよ、もう食べ物は喉を通らないし、急速に脳のほうもおかしくなって 来た。母が看護しても少しもありがたがらないし、泣くように頼んでも紙おむつ をはいてくれないので、とうとう母が介護疲れで「うつ病」にかかり、現在 私の主治医のご厄介になっている。本当なら母こそ入院させねばならないところだ。
では病院はどうかというと、今いる部屋(整形外科)---とにかく空きベッド がないのだ---ではポータブルトイレも置いてくれないそうだ。仮に内科の 病室に移っても、大差はないだろう。
その上、祖母は昼夜逆転していて、夜中に「家で死にたい、家で死にたい、 病院はイヤだ!」とわめきちらしているという。
母はそれで眠りもできない。
いったいこんな状態に陥った場合、何がベストなのであろうか。
祖母を家に連れ帰れば(ただしイロウが作れた場合しか家には帰れそうにない)、 母が介護で倒れることは間違いない。しかし、最後まで人間として祖母を 扱ってやるには、家に連れて帰るしかない。
今や母を助ければ、祖母に人間らしい「見送り」をしてやることが難しい。
祖母を最後まで家であるいは病院でつきっきりの看病をしてあげるとすれば、 母が倒れる。祖母は絶対に他人を信用しないので、ヘルパーをつけるとまず 大喧嘩をすることは間違いない。どういうわけか、脳の攻撃的な機能はまだ しっかりしているのである。
二人だけしかいない年老いた肉親を見ていて、私自身もどうしていいかわから ない。お金でできることは私が負担するが、私には仕事も家庭もあり、しかも 年度末の最多忙期にある。
そのまた私も肉親の死などが原因でうつ病が再発する可能性がある。すでに予防 的に、抗うつ剤と抗不安剤を入院時の2倍の量に増やしてもらって服用している。
物事はなるようにしかならないが、肉親をみとる時、何とか最期は満足させて やりたいと思ってしまう。
それともこういう心配は必要ないのだろうか? 死に瀕すれば人は苦痛や不 幸な感情をもう感じなくなるのだろうか。神様はそういうふうに人間を作って くれたのではないかと、手前勝手なことを考えてしまう。
ひとまず母に電話を入れて彼女の具合をきき、そして私はいつ何があっても 対応できるように仕事を片付け、よく体も休めておくのが今のところベスト かもしれない。
いつかはやって来る事態だったが、いよいよ砂時計の最期の砂が音もなく 落ちてゆくのを見ていて、無感情ではいられない。
こういう時、よく昼間から睡眠薬をのんで苦しい感情から「寝逃げ」する、 というのが精神を病む人の定番らしいが、私は社会人としても家庭人としても 責任ある行動をとらねばならぬ。
明日は神戸の病院に遠出するが、帰りにあまり疲れすぎていなければ祖母の 入院先に寄ってみようと思う。でも、母のほうの様子を見に行くほうが大事 かもしれない。
なかなか意志決定ができない。しかし、とりあえず、もう休む時間なので、 薬を服用することにしよう。
今日もメールも手紙も書けませんでしたけれど、いただいた私信はいずれも 私にとって嬉しいものでした。今はすぐお返事できないけれど、気持の上では 久しぶりに便りを下さった方々を懐しく思い、深い感謝と、心からの挨拶 を送ります。
(最後の「心からの挨拶」は日本語じゃなくて、ドイツ語ですね。 言葉がみつからないので、おゆるしあれ。)
Author: Kyoko Rikitake
<malte@k2r.org>
Copyright © 2002 by Kyoko Rikitake. All Rights Reserved.