その手を引っこめよ! [9-Feb-1999]


SOHOの問題点については 以前に書いた。

自宅にいながら仕事ができるということは通勤の時間や労力を考えれば、 非常に恵まれたことであり、普段着のままで仕事ができるなど、便利な点は評 価できる。

しかしながら、ネットワーク関連の仕事の場合、それは逆に24時間仕事に 「繋がれたまま」の状態をも意味する。

夫がしばらく前から心身の疲労が激しいため休暇を取っていることも上掲 のページに書いた通りである。

今日も夫と二人で神経科を受診してきたのだが、けっこうディープな会話 になってしまった。まず、神経科の入院患者さんにコンピュータ技師など同業 者がけっこういることを確認した。私が入院していた昨年の今頃も何人かそれ とおぼしき人がいたが、今もいるということだ。中には元気になって退院して も、すぐ病状が悪化して再入院して来る人もいるようだ。

ここで、ちょっと「テクノストレス」というものについて考えてみた。

私の考える「テクノストレス」には2種類ある。

まず第一は、機械(コンピュータ)の操作がうまくできないことがストレス となって心身を病むケース。もうひとつは、第一戦で常に働き続ける筋金入りの プロ。

この二つのカテゴリーの人が危い。

第一のカテゴリーについてはあまり多くを述べる必要はあるまい。コンピュー タができないとリストラにあうからといってコンピュータスクールに通っては みたものの、やっぱりついて行けなくてだんだん神経が参ってしまう人。ずい ぶん前に書いたメッセージだが、 むかしの「マル テのコラム」。これは私自身がすでにテクノストレスやその他諸々の事情 で精神を崩壊させる寸前に書かれたもの。

さて、深刻なのは第二のカテゴリーに属する人の場合です。

夫はすでにプロとして(つまりお米を稼いでいるという意味)9年、アルバイ ト時代を含めると12年にわたって完全に「繋がれて」いる。結婚してすでに7 年になろうとしているが、夫がコンピュータの前に座っていない日は一日たり としてなかった。私から見れば夫が家にいるのではなく、コンピュータが夫を その前に座らせているという感じなのだ。わかってもらえるだろうか、このニュ アンス?

食事の途中でも何度も席を立ち、メールをチェックしたり、ネットワーク の監視をしたりしていれる。これは家族としては耐え難いものであった。ある 時私が大爆発して、食事中に頻繁に席を立つことだけはやめさせた。が、そう すると今度は食事が胃に入るか入らないかのタイミングに「ごちそうさま」し て席を立ってしまう。これもあまりにも両者の健康上よろしくないので、なる べくやめさせている。(なるべく、だが。)

おまけに私が入院していた時など、夫は本来の業務だけでなく、チャット やメーリングリストにはまり、全く昼夜逆転生活をし始め、本当におかしくなっ ていた。(その時はアルコールにも手を出していたのだが。)

しかし、その夫もとうとうネをあげてしまった。精神不安定、自律神経失 調とお決まりのコースを辿りはじめたので、うつ病になる前に手を打って、ま ずはこちらに書い たように主治医に相談して夫の生活改善をさせた。

そして私が家にいるようになってからは、できるだけ別の気晴らしをしよ うと努力してきたが、やっぱり駄目なのである。ついマシンに向かってしまう。

いや、ダメなのは夫だけではない。私自身もそうなのである。ホームペー ジを再開してから、メールやホームページをチェックすることが増えた。つい 手があくと、マシンに向いたくなる。私のマシンはリビングキッチンにあるの で、オーブンで魚や鷄を焼きながら、ちょっとメールを書くなどということも 可能なのである。いや、可能だった、病気になるまでは。今はまだ精神機能が 充分に回復していないので、めったに文章は書かない、いや書きたくても書け ないし、無理をして書くと一晩中眠れなくなる。

それでもマシンがそこにあると気になる。そこで主治医とも相談して、一 度インターネット常時接続のサーバーを止めてみた。

すると、どうだろう。今までやろうとしてもやれなかった家事もできたし、 紙の本を読む余裕もできた。世界がぐっと変わって見えたのである。

我が家ではプロキシを使っているので、インターネット常時接続サーバを 落とすと、Windows などの他の端末からも通信ができなくなってしまう。完全 にネットワークから切り離されるわけだ。

つまり、サーバマシンを落とすと事実上何もできないわけだが、その分、 長い間忘れてしまっていたことや、日頃したくてもできないことができる。御 無沙汰している方にちょっとした手紙を書くこともできれば、普段敬遠してい る大がかりな家事の類もこなせる。

たった一日であってもマシンを落とすとずいぶん家庭内の状態は変わるものだ。 (我が家の場合は最初に書いたようにSOHOだから。)

たとえば土曜日、「今日はコンピュータを使わない日」と決めると、ちょっ としたハイキングやデートもできる。こないだも二人で神戸でデートした。神 戸のメリケン波止場にあるホテルのレストランの最上階で食事を堪能するまで いただき、美しい神戸の夜景を楽しんだ。

こういう余裕あってこそ、いい仕事ができるのだと思う。

しかしながら、第一線でコンピュータ関係の仕事をしている人間には休む 暇がない。とにかく技術は日進月歩ならぬ時速いくらで進んでいると言ってよ い。常に最新の技術を身につけておくことが技術者には必要だ。しかし、24時 間ネットワークのメンテやトラブルに煩わされていたのでは、新しいことを学 ぶ時間がない。しかし、新技術に乗り遅れてはならない。乗り遅れるようでは 一流の技術者を自認することが許されない。そこに第一線の技術者のかかえる 悩みがあるのだ。

最近我が家では、夫も私も「音」に異常にナーバスである。サーバマシン のハードディスクのガリガリという音を聞くと、「あ、メールが来たな」と思っ てしまう。そしてつい席を立ってマシンへ、ということになる。

しかし、そこをぐっと我慢して、

「その手を引っこめよ!」

そうしてやっと我が家の平静と我々夫婦の精神のバランスが保たれるのである。

蛇足ですが....

私がこのメッセージをオンラインで書いている間、【まだ書き終っていま せん】と掲示しておいたんですが、それでも、見た人、いますね。:-)

その手を引っこめておいたほうがよろしいですよ。:-)


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Author: Kyoko Rikitake <malte@k2r.org>
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