きまずいエレベータ内の沈黙


共同住宅のエレベータで人と乗りあわせた時,もし相手が知らない人ならせい ぜい「何階ですか?」ときくだけで終りだ.ところが,近所の人と会ってだまーっ ているのは少しバツが悪い.そういう時は,ひとつづつ上がって(下がって)ゆ くエレベータの階数表示をボケーと眺めている.あるいは取って来たばかりの郵便や新聞を見るふりをしたりする.

が,これが職場のエレベータだとちょっと違う.名前までは知らないにしても, 一応顔見知りの人がほとんどだから一言挨拶ぐらいはしないとだめだ.私の職 場の部署には,70人ぐらいの教員,10人ぐらいの事務の人,それに教員,事務 ともにたくさんの非常勤職員がいる.

「おはよう.元気?」
「最近,忙しい?」
「何かいいことない?」
「あついねー.しんどいねー.」
という具合にしょーもないことをひとことふたこと言ううちに目的の階につい てしまう.

私にとって問題は,外国人のスタッフとの会話だ.ドイツ人ならまあ問題はな い.上記の日本語と同様の会話をしている.が,職場には英,米,仏,露,中 国語を使う人々がいる.ひょっとすると韓国・朝鮮語,イスパニア語の人もい るかもしれない.特に親しくはないが,しかしよく見かける人とエレベータに 乗り会わせた時,どうすればいいのかよくわからない.

中には赴任して来たばかりで,全然日本語のできない人もいるので,最初何語 で話していいのか困る.ある時,印刷室でちょっとトラぶっている外国の人が いたので,「どうしましたか?」というお節介をしたことがある.下手な英語 で一生懸命しゃべった.相手もとても上手な英語で話してくれた.後にわかっ たのだが,その人はロシアの人で,専門が日本語であり,私より数倍も流暢で, 格調高い日本語をしゃべるのだった.しまった,日本語で話しかければよかった.

で,エレベータの話の続きだが,私は3階の住人である.この3階はドイツ語族 の住処ではなく,そもそもフランス語族が中心的に庵をかまえている.だから, いつもよいコーヒーの匂いがしていたりする.エレベータでフランス語族と出 会った場合,「ボンジュール!」に始まる一連のおきまり文句で応対すること にしている.が,私に出来るフランス語会話はせいぜい30個ぐらいなのだ.だ から,ちょっとでも話がはずむとマズイことになる.すぐにわからなくなって しまう.朝エレベータで会った同一人物と今度は教室までの道で一緒になるこ とがある.この教室がけっこう遠い.とすると,ちょっとした会話をする必要 があるのだが,そうなるとお手上げである.教室で指名されるのにおびえて一 番後ろに座っている学生の気分だ.

というわけで英語族,仏語族とエレベータで一緒になり,さらに教室まで一緒 に行くのはつらい.来週こそはちょっと会話ができたらなぁと思って,英語と フランス語会話の本を家に持って帰るのだが,やっぱり次の週も同じことを思 いながら家に帰ることになる.そういう生活がもう4年も続いている.が,いっ こうに英語も仏語も上達しない.

最近は居直ってしまって,とりあえず日本語で話しかけることが多い.でも本 当に全然日本語の出来ない人とエレベータに乗りあわせることがけっこうある ので,ヒヤヒヤ.:-)

この話をすると,たいていの人の反応はひややかだ:

「たかが3階なんだから,エレベータに乗らなきゃ,いいじゃん.」

「そんな背伸びせんでも,日本語だけでええやん.相手がわからんかったら,ほっとき.」

そりゃそうだわね.エレベータには乗らず,教室までは一人で大急ぎでダッシュ するか.


「マルテの外国語喫茶」に戻る.


[Home]Click here for going back to my home page.


$Id: tea0524.html,v 1.1 1996/10/17 12:31:37 malte Exp malte $
Author: Kyoko Rikitake <malte@lang.osaka-u.ac.jp>
Copyright © 1996 by Kyoko Rikitake. All Rights Reserved.